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神戸地方裁判所 昭和43年(行ウ)11号 判決 1969年9月17日

原告 三輪康治

被告 兵庫県尼崎財務事務所長

主文

被告が原告に対して昭和四二年一一月一〇日付第一二四五七号納税通知書によつてなした不動産取得税一二万三九九〇円の賦課処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告

主文同旨

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(原告の請求原因)

一、原告は別紙目録記載の土地(以下本件土地という)を昭和四一年三月一八日原告が代表取締役である訴外三輪不動産株式会社(以下訴外会社という)に売渡すこととし、所有権移転登記を経由したが、代金が支払われなかつたので同四二年八月二六日合意解除を理由として右移転登記の登記抹消をした。

二、被告は、まず訴外会社に所有権が移転されたとして同会社に不動産取得税を賦課し(同会社はそれを納付した)、更に原告に所有権が移転されたとして同四二年一一月一〇日付第一二四五七号納税通知書によつて原告に対し不動産取得税一二万三九九〇円の賦課処分をなした。

三、しかし、訴外会社への移転登記に使われた売渡証書中、代金が授受された旨及び金額の記載は事実に符合せず、そのような売渡証書によつてなされた登記は無効である。また、対価が支払われていない以上実体的所有権は移転したとはいえず、所有権は依然として原告にあるから、その後に原告が所有名義を得たとしても新たに所有権を取得したとはいえない。

本件土地は貸地であり、借地人との交渉には法人の方が好都合であると考えて訴外会社に移転登記をしたものであり、また合意解除は登記抹消の方法としてそうしただけである。

なお、本訴提起後の同四三年一二月二六日、西宮税務署長は、訴外会社に課せられた不動産取得税は原告が支払うべきものであり、同会社が払つたのは立替金であるとの更正決定をした。これからみても所有権が原告から訴外会社に移転していなかつたことがうかがえる。

四、原告は、同四二年一二月九日兵庫県知事に審査請求をしたが、同四三年二月二七日棄却された。

五、よつて右賦課処分の取消を求める。

(被告の答弁及び主張)

一、請求原因第一、二項の事実は認める。

二、原告と訴外会社とが行なつた合意解除は、原告から同会社へ移転した本件土地の所有権を原告に再移転させる新たな契約であり、地方税法にいう「不動産の取得」にあたる。同会社が不動産取得税を課せられそれを納付したことは、一度同会社に所有権が移つたことのあらわれである。

なお、訴外会社に対する不動産取得税は、同会社が原告から所有権を取得したことにつき課せられたのであるから、原告が支払うべきであるとする西宮税務署長の更正決定は、地方税法の解釈を誤つた違法なものである。

従つて、原告に対する賦課処分は正当である。

(証拠)<省略>

理由

一、原告が訴外会社に本件土地を売渡すこととして所有権移転登記をなし、その後合意解除を理由として右移転登記の抹消手続をしたこと、原告が訴外会社の代表取締役であること、被告は訴外会社に対し、同会社に所有権が移転されたとして不動産取得税を課し(同会社は納付した)、次いで原告に対し原告に所有権が移転されたとして昭和四二年一一月一〇日付納税通知書によつて不動産取得税一二万三九九〇円の賦課処分をしたことの各事実は当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない甲第三号証、乙第一、第四号証、証人竹内正夫の証言、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。原告は、本件土地を昭和四一年三月一日、原告が代表者である訴外会社に売渡し、同月一八日、所有権移転登記手続をしたが、代金は未払いであつた。本件土地は貸地であつたので、管理、借地人との交渉などの便宜上、訴外会社へ所有名義を変えたのであるが、単に名義だけを変えたのではなく所有権の移転を伴なつたものであり、同会社も代金を支払う意思をもつて譲受けたものである。そこで同会社は、帳簿に本件土地を資産として計上し、代金は未払金として残し、不動産取得税を支払つた。しかし、同会社は代金を支払える見込がたたず、また借地人との交渉が進展しないこともあつて、同四二年八月一五日、原告は本件土地の返還を求め、同会社もこれに同意し、同月二四日合意解除を理由として右所有権移転登記の登記抹消手続をした。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。(なお、甲第六号証西宮税務署長の更正通知書は、訴外会社が原告から本件土地を譲受けたことに対する不動産取得税を原告が支払うべきとするもので、明らかに納税義務者を誤まつた違法があり、原告から訴外会社に所有権が移転しなかつたことの根拠にはならない。)

三、地方税法七三条の二第一項の「不動産の取得」は、特に通常と異なる意味をもたせているとは解されないから、所有権の取得を意味するものと解される。

ところで、合意解除は、元の契約につき履行が完了し、該契約がその目的を達している場合には、実質的に再売買と同一であるから、合意解除による所有権の取得が同法にいう「不動産の取得」にあたると解してさしつかえない。しかし、履行が完了しておらず、該契約が目的を達していない場合の合意解除は、履行遅滞や履行不能による法定解除の場合と同様、一応所有権の移転はあるが、該契約が目的を達しないための所有権の復帰にすぎず、実質的にみて新たな「不動産の取得」と解するのは相当でない。(なお附言すると、このように解することは、元の契約による所有権の取得が「不動産の取得」にあたらないとするものではない。)

四、そこで本件の場合を検討するに、売買契約に基き本件土地は訴外会社に引渡されたが代金は支払われておらず、そのことが合意解除の原因であつた。原告が訴外会社の代表者であるという関係から、原告が同会社に本件土地の返還及び所有権移転登記の抹消を求め、同会社が同意して合意解除したのであるが、実質的には代金不払を理由とする契約解除と何ら異ならない。従つて、右契約の履行は完了しておらず、未だ契約の目的は達せられていなかつたものと認められる。そうであるなら、合意解除により本件土地の所有権が原告に再移転しても、地方税法にいう「不動産の取得」にあたらないと解される。

五、以上のとおり、原告には不動産取得税の納税義務はないと認められるから、被告の原告に対する賦課処分は違法である。よつて右賦課処分の取消を求める原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田鷹夫 日野原昌 谷岡武教)

(別紙目録省略)

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